35歳、40歳を過ぎて高齢出産をめざす方にとって、心配ごとの一つに、赤ちゃんの『染色体異常』がありますよね。
長寿・晩産化が進んでいるとは言え、残念ながら、年齢による卵子や精子の染色体の変化まで遅くなっているわけではありません。
女性の平均出産年齢が、この20年で27.7歳から30.7歳になったのに比例して、ダウン症の赤ちゃんの出生率も20年で2倍、中絶数も2倍に増えています。(2020年現在)
染色体異常はなぜ起こるのでしょうか?
年齢によって、どれくらい確率が上がっていくのでしょうか?
染色体異常は防げないのでしょうか?
詳しくみていきましょう。
染色体異常とは?
赤ちゃんの染色体はどうやって決まるの?
ヒトの染色体は、通常46本あります。
1~22番の常染色体がそれぞれ2本ずつ対になって44本、それに性染色体が2本加わって、合計で46本です。
体中すべての細胞1つ1つに、それぞれ46本ずつ染色体が入っています。
それはもちろん卵子と精子の細胞にも入っています。
卵子と精子は、それぞれ受精する前に、お互いに自分の46本の染色体を半分に減らして、23本ずつにし、受精してママとパパの染色体を合わせて再び46本にするのです。
それが新しい命、赤ちゃんの染色体となるのですね。
染色体異常はいつ起こるの?
染色体の異常は、卵子や精子が、受精するために自分の染色体を半減させる時に起こると言われています。
卵子と精子が、受精前にそれぞれ46本の染色体を23本に減らす際に、何らかの理由でうまく半分に減らせず、22本になってしまったり、24本になってしまったりすることがあります。
卵子と精子の染色体の合計が、通常の46本より1本多い47本になったものを『トリソミー』、1本少ない45本になったものを『モノソミー』と言います。
また、染色体の数は通常通り46本あっても、一部が欠けたり、転座してしまったりすることもあり、それを染色体の『構造異常』と言います。
これらはすべて、『染色体異常』とされ、流産や死産、赤ちゃんの疾患の原因になります。
出産の可能性のある、21(ダウン症)・ 18・13トリソミー
一番有名な染色体異常といえば、やはり『ダウン症』ですよね。
1~22番まで、すべての染色体をママとパパで1本ずつ持ち寄って受精するのですが、どちらかが21番の染色体を2本持ってきてしまった場合、21番染色体の合計が通常より1本多い『3本』になります。
これが21トリソミー、いわゆる『ダウン症』です。
その他、
- 18番染色体が1本多い 18トリソミー
=エドワーズ症候群
(小頭症・口唇口蓋裂・先天性心疾患など) - 13番染色体が1本多い 13トリソミー
=パトウ症候群
(口唇裂・口蓋裂・脳奇形・精神遅滞など)
があります。
この『21・18・13』番の3種類の染色体のトリソミーが、出産する可能性のある染色体の数の異常です。
これ以外の染色体は、より生命維持に必要な遺伝情報が多いため、本数に異常があると妊娠継続・出産までいたることはまずありません。(性染色体の本数異常を除く)
高齢出産での染色体異常の確率は?
染色体異常の赤ちゃんが生まれる確率は、全出生数のうち、およそ0.8%です。
その確率は、母親の年齢によって大きく異なります。
下の表は、母親の年齢別の染色体異常とダウン症の赤ちゃんが生まれる確率です。
母親の年齢別 出生児の染色体異常の確率
母親の年齢 | 何らかの染色体異常がある確率 | ダウン症の確率 |
20歳 | 1/526 | 1/1997 |
25歳 | 1/476 | 1/1250 |
30歳 | 1/385 | 1/952 |
35歳 | 1/192 | 1/378 |
40歳 | 1/66 | 1/106 |
41歳 | 1/53 | 1/82 |
42歳 | 1/42 | 1/63 |
43歳 | 1/33 | 1/49 |
44歳 | 1/26 | 1/38 |
45歳 | 1/21 | 1/30 |
46歳 | 1/16 | 1/23 |
47歳 | 1/13 | 1/18 |
48歳 | 1/10 | 1/14 |
49歳 | 1/8 | 1/11 |
これは、あくまで無事に出産した中で、染色体異常が認められた赤ちゃんの割合です。
流産や死産になった赤ちゃんの数は含まれていません。
ですので、年齢ごとの妊娠出産率を考えると、受精卵の時点での染色体異常は、高齢になればなるほど、この数倍〜数十倍にも及ぶと考えられます。
高齢出産で染色体異常が増える原因は?
染色体異常の一番の原因は、卵子の老化と考えられています。
卵子は胎児のときに作られ、それ以降、新しく作られたり入れ替わったりすることはありません。
年齢が35歳なら、卵子の年齢も35歳、ということですね。
卵子の質は、30歳くらいから落ち始め、35歳から急激に降下すると言われています。
また、卵子よりは老化が遅いものの、精子も老化します。
20代の男性に比べて、50代の男性の精子は、染色体異常の割合が2倍から3倍多いというデータがあります。
さらに染色体異常には、喫煙歴、環境因子、添加物の摂取、放射線や紫外線を浴びた量なども関係していると言われ、年齢が上がるにつれて、これらの蓄積が増えていくことも原因の一つです。
また、これは年齢には関係がありませんが、遺伝で染色体異常が発生するケースもあります。
染色体の『数の異常』は遺伝しないと言われていますが、『一部欠失などの構造異常』の場合は、両親のいずれかが保因者だと赤ちゃんに遺伝する場合があるということがわかっています。
(親自身には症状がなく、保因者だと気が付いていないケースもあります。)
このように、染色体異常はさまざまな要因で起こります。
特に、加齢による発生頻度がもっとも高く、35歳、40歳を過ぎて高齢出産をめざす方は、正しい知識を持ち、出生前診断や子どもが生まれた後のライフスタイルなどについて、事前に夫婦でよく話し合っておくことが大切です。
染色体異常になると、どうなるの?
染色体の『数の異常』の場合
染色体の数が通常と異なると、ほとんどの場合が流産や死産となります。
その中で、比較的出産に至る確率が高いのが、『13・18・21』の3種類のトリソミーです。
実はダウン症(21トリソミー)は、染色体の本数が通常とは違う『トリソミーやモノソミー』の中では、もっとも障害の軽いものです。
そのため、ダウン症の場合には約20%が出産でき、いまでは平均寿命も50歳を超えています。
13トリソミーと18トリソミーは、出産にいたるのが5~10%、そのうち1年後の生存率は10%程です。
この3つ以外のトリソミーやモノソミーは、残念ながらほぼ100%、流産や死産となります。
(全く出産例がないわけではありません。)
染色体の『構造異常』の場合
染色体の数は通常通り46本あっても、どこかが少し欠けていたり重複していたりする『構造異常』の場合には、『数の異常』に比べると出産率が少し上がります。
それでも、ほとんどの場合が流産や死産にいたります。
また、出産した場合の症状や生存率は、異常のある染色体の番号と度合いによって、かなり異なります。
異常がごくごく軽微な場合には、無事に出産し、出産後も染色体異常に気がつかずに成長し、大人になってから何かのきっかけで検査をして判明することもあります。
染色体異常は防げないの?
では、染色体異常を防ぐ方法はないのでしょうか?
残念ながら、今のところ完全に防ぐことはできません。
しかし、リスクの減少が期待できる方法はいくつか報告されています。
ビタミン・ミネラルが、先天性異常のリスクを減らす
意外かもしれませんが、身近なビタミン・ミネラル類が、ダウン症を含む先天性異常を防ぐ可能性があることがわかっています。
ビタミンBの一種である『葉酸』の効果はよく知られていますが、その他のビタミン・ミネラル類にも効果があるものがあります。
ではまず、葉酸から見ていきましょう。
『葉酸』が赤ちゃんの神経系疾患を減らす
水溶性ビタミンの一つである『葉酸』は、妊娠超初期の赤ちゃんの神経経路が作られる時に、とても大きな役割を果たします。
モノグルタミン酸型の葉酸(サプリメントに含まれる合成葉酸)を、妊娠前から摂取することによって、赤ちゃんの『神経管閉鎖障害』のリスクを 7割減らすことができるということが、科学的に証明されています。
さらに葉酸は、21番染色体の本数異常であるダウン症とも深く関わっていると考えられています。
日本の厚生労働省は、神経管閉鎖障害への効果のみ認めていて、まだダウン症との関連は正式には認めていません。
しかし欧米では、すでに2003年に、
『葉酸がダウン症のリスクも減らす可能性がある』
と医学誌に発表されています。
そのため、欧米ではかなり前から葉酸サプリの摂取がすすみ、ダウン症などの先天性疾患の赤ちゃんが生まれる割合が、日本と比べて、アメリカでは1/8、イギリスでは1/6と、かなり少なくなっています。
(もちろん、葉酸以外の要因が影響している可能性もあります。)
日本でも、妊娠前からの葉酸サプリの摂取がもっと広まれば、ダウン症の発症率も少なくなっていくかもしれません。
妊活を始めたら、すぐに葉酸サプリを飲み始めるようにしたいですね。
葉酸の推奨摂取量
合成モノグルタミン酸型葉酸 400μg
『ナイアシン』も赤ちゃんの先天性異常を減らす効果がある
2017年、アメリカの医学誌『ニューイングランド医学ジャーナル』において、
「妊娠中にナイアシンを摂取することで、一部の流産や先天性異常を大幅に減少できる可能性がある」
と発表されました。
ナイアシンも、葉酸と同じく水溶性ビタミンの1種で、ビタミンB3とも呼ばれています。
この『先天性異常』にダウン症が含まれるかどうかまでは発表されていません。
また、もともと異常の遺伝因子を持つ妊婦さんに対してのデータであり、健康な妊婦さんに効果があるかどうかはまだわかっていません。
ナイアシンについては、まだ新しい研究なので、今後さらに解明が進んでいくことでしょう。
しかし、ナイアシンには妊娠中に摂取することによって赤ちゃんの『アトピー性皮膚炎』のリスクを下げる効果もありますので、どちらにしても必ず摂取しておくようにしましょうね。
ナイアシンの推奨摂取量
12mg
『ビタミンD』には自閉症のリスクを減らす効果がある
ビタミンDは、近年研究が進み、妊活や赤ちゃんの健康に関する効果がたくさん解明されてきています。
『多嚢胞性卵巣症候群が改善される』
『着床率が上がる』
『赤ちゃんの筋力が強くなる』
などに加え、
『赤ちゃんの自閉症リスクが減る』
ことがわかってきました。
自閉症の原因や仕組みはまだ完全には解明されていないのですが、多くの染色体領域との連鎖が報告されています。
妊娠20週までのママのビタミンDの血中濃度が重要とのことですので、妊娠初期から中期にかけては、特に不足しないようにしたいですね。
ビタミンDの推奨摂取量
7μg
卵子や精子の老化のスピードを遅らせる
また、卵子や精子の老化のスピードも人それぞれで、老化を遅らせることによって染色体異常のリスクを減らすことができると考えられています。
『日頃の生活習慣、運動習慣、食生活の改善、温活』など、卵子の質を向上させるために自分に足りていないものを見つけて、ぜひ対策をしていきましょう。
正しい知識を持ち、夫婦でよく話し合おう
どんな赤ちゃんでもかわいいですよね。
でもできることなら不自由がない赤ちゃんを産んであげたい。
そう思うのはごく自然なことで、誰かに責められることではありません。
(かといって、決して染色体異常のある赤ちゃんを産むことを否定するわけではありません。)
特に高齢出産の場合、自分の残りの人生の長さを考えると、いつまで子どもの面倒を見られるかわからない。
自分が先に死んでしまったら、子どもはどうしよう?
それは切実な、そして現実的な問題ですよね。
でも、ただただ心配していても仕方がありません。
40歳での出産でも、赤ちゃんに何らかの染色体異常があるのは66人に1人、ということは、裏を返せば40歳でも98.5%は、染色体異常のない赤ちゃんが生まれているということです。
前向きに今できることをひとつずつしていくことが大切です。
そして、出生前診断などについても正しい知識を身につけ、いざ妊娠したときに、慌てずに納得のいく選択ができるよう、ご夫婦で事前によく話し合っておくようにしたいですね。
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